主要指標について

ここでは、個別銘柄分析に使用している主要指標のうちPERとキャッシュニュートラルPER(CN-PER)について解説します。
いろいろと計算式が並んでおり複雑との印象を与えるかもしれませんが、「それぞれの指標が、’何’ をもって株価の裏付けとなる『企業価値』としているか」、その違いにご注目ください。

PER(株価収益率)

$$PER=\frac{株価}{1株当り利益}=\frac{時価総額}{当期利益}$$$$株式益利回り=\frac{1}{PER}=\frac{1株当り利益}{株価}$$・「企業の収益力」を企業価値とみなす

毎期における企業の当期利益は、企業のオーナーである株主に帰属します。当期利益の一部は「配当金」という形で株主に直接還元され、残りは「内部留保」されます。内部留保された資金は理屈上はその分だけ企業価値(=株価)を押し上げるので、間接的に株主に還元されます。(もし、内部留保したにもかかわらず企業価値がそれ以上に上がらないとすれば、その企業は資金を有効に活用していないということになり経営的な問題が生じます。これも面白いテーマなのですが、大きく脇道にそれてしまうのでここでは踏み込みません。)

PER(株価収益率)は、「株価」を「1株当り利益」で割った指標です。例えば、株価 1000円、1株当り利益 50円の企業であれば、PER = 1000 ÷ 50 = 20 倍となります。これは何を意味しているのか・・・ある企業Aが将来ずっと50円の1株当り利益を出し続けると仮定して、今1000円で企業Aの株を購入すれば、20年間でその1000円(= 50円 × 20年)を回収できます。 この倍率が低いほど、早期に投資資金を回収できる割安な株式と判断できます。

毎年の利益をその株式に投入するリターンとみなすのであれば、PERの逆数である「株式益利回り(= 1株当り利益 ÷ 株価)」の方が直感にあうと思います。
例えば、先のPER 20倍の企業Aの株式益利回りは、50 ÷ 1000 = 5%と計算されます。
しかし、市場関係者の間では慣習的にPERの方が広く用いられています。PER20倍であれば益利回り 5%、PER10倍であれば益利回り 10%と覚えておけば、投資の際の目安になります。

PERは非常に有用性の高い指標ですが、「現在の利益がそのまま将来も変わらない」という仮定が置かれていることに留意する必要があります。成長企業であれば利益の成長を見込めるので、現在の利益で算出したPERよりも投資家は高く企業価値を評価します。
例えば、現在の1株当り利益は50円だが将来利益の平均が100円を見込める成長企業Bがあり、投資家の求める株式益利回りが5%だとすれば、その企業Bの株価は 100 × 20 = 2000円の値段がつけられます。このとき現在の利益で評価するPERは、2000 ÷ 50 = 40倍と高い倍率になります。
逆に、今期一時的に大きな利益をあげたが、来期より元に戻るという企業があれば、その企業のPERは低い倍率で評価されるのが通常です。

CN-PER(キャッシュニュートラルPER)

$$CN\verb|-|PER=\frac{時価総額-NC}{当期利益}=PER×(1-NC比率)$$$$NC=流動資産+投資有価証券×0.7-負債$$$$NC比率=\frac{NC}{時価総額}$$・「企業の収益力+企業の清算価値」を企業価値とみなす

PERは、「企業の収益力」を「企業価値」とみなす指標です。それに対し、その企業の「保有する資産価値」を「企業価値」とみなす考え方もあります。
その代表的な指標はPBR(株価純資産倍率)で、「PBR = 株価 ÷ 1株当り純資産 = 時価総額 ÷ 純資産」と定義されます。企業の簿価上の純資産額(= 自己資本額)を企業価値とみなしています。東京証券取引所が、PBR 1倍割れの企業に対し改善を要請したのは記憶に新しいところです。しかし、伝説のファンドマネージャー・清原達郎氏はその著書『我が投資術 市場は誰に微笑むか』において、工場など固定資産を簿価評価しているPBRは全く役に立たない、と言い切っています。私も同感で、PBRにより企業評価したことは一度もありません。

代わって清原氏が有用な指標として提案しているのが、キャッシュニュートラルPER(長いので「CN-PER」と略します)です。結論からいえば、これは「企業価値」を「企業の収益力+企業の清算価値」とみなす指標です。

まず「企業の清算価値」を、「流動資産 + 投資有価証券 × 70% – 負債」と定義し「ネットキャッシュ(NC)」と呼びます。
流動資産および投資有価証券を処分容易な資産として価値を認め、それ以外の資産(工場などの固定資産)は処分困難として評価ゼロとみなします。投資有価証券については処分の際に税金がかかることを考慮し、保守的に70%評価としています。一方で会社解散の際には、債務者に債務を返済しなければいけないので負債総額を処分可能な資産から控除しています。
このNCがプラスであれば債務返済後もその金額だけ手元に資金が残ることを意味し、マイナスであれば負債額が処分可能な資産より多いために手元から資金の持ち出しが生じることを意味します。

NCを時価総額で割った値が「ネットキャッシュ比率(NC比率)」で、時価総額のうちNCが占める割合を表しています。NC比率が100%を超過する(NCが時価総額を上回る)ことは理論的はありえず、もしそのような企業があれば、投資家は時価でその企業を買収し即解散すれば差額をもうけることができます。
時価総額のうちNC比率が100%に満たない部分は、企業価値が「企業の清算価値」以外の要素で評価されていると考えられます。

それ以外の要素を「企業の収益力」とするのが、CN-PERです。その定義式は「CN-PER = ( 時価総額 – NC ) ÷ 当期利益 = PER × ( 1 – NC比率 )」となります。NC比率がプラスであれば、その分だけ CN-PER は通常の PER よりも小さな値となりますし、マイナスであればその逆です。すなわちCN-PERは、通常のPERに企業の資産価値を加味した指標であり、PERを補完する指標として私の銘柄選びの際にも参照することにしています。

(※)上記の説明は清原氏の著作を参考にしていますが、私個人の解釈による部分もあり、誤りなどある場合にはその責任は私に帰します。

総括

株価を評価する指標は数多く存在しますが、絶対的に正しいものはなく(そんなものがあればそれだけが使用されているはず)、投資家の投資スタイルや好みによってどの指標を重視するかは変わってきます。また、どの指標にも欠点はありますので、その欠点を理解しながら使いこなすことも求められます。PERやCN-PERの欠点については清原氏の著書で触れられていますので是非ご参照ください。

「配当狙い投資」において重視すべき指標は、「配当利回り」と「PER」です。
「配当利回り」は、言うまでもなく限られた資金のなかでより多くの配当金を得るためにみるべき指標です。
「PER」についても、配当金の源泉が当期利益であることを踏まえれば、やはり重要な指標となります。
「CN-PER」については、企業の清算価値は直接的には配当金に影響しないので、配当狙い投資においての重要性はやや落ちます。しかし、CN-PERの低い企業は割安であり値下がりしにくいことが期待できるため、PERを補完する指標としての活用が可能です。

先に述べた通り、PERは将来利益を一定と置くという欠点があります。現在は低PERで割安と判断しても、将来的に減益となればPERは上昇しますし、さらには配当狙い投資にとっての最大のリスク「減配」となってしまうこともあります。長期的な業績の安定度を評価した「安定成長スコア」等により欠点を補うことが重要です。

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