日本の株価はバブルなのか ④ 日本株以外の市場

2024年3月25日

2月22日に日経平均株価が過去最高値を更新してから1か月が経ちました。3月初旬に一旦下落したものの、その後持ち直して3月22日終値で 40888.43円と1か月で 4.58% 上昇しています。
なお、以前記事に書いた通り日本の株式市場全体の動向をみるには、日経平均よりTOPIXの方がふさわしいです。そのTOPIXはこの1か月で、 2660.712813.22 5.73%の上昇です。TOPIXもいよいよ過去最高値 2884.80 の更新がみえてきました。

そして、この1か月依然として絶えないのが、「今の株価はバブルであり大暴落間近」とするネット記事です。それも、れっきとした学者、経済評論家、投資会社関係者からそのような予想が出されています。
果たして株価は近々暴落するのか、暴落するとすればその原因は何になるのか、今一度検証してみました。

株価の形成要因と暴落を引き起こす原因

株価を形成する要因は大きく2つ、①その企業の実力(ファンダメンタルズ要因)②投資家の思惑(テクニカル要因)です。そして、「投資家の思惑」によって「企業の実力」を超過する株価が形成されているとき、その超過分がバブルと呼ばれます。

それをふまえて、株価の暴落を引き起こす原因は以下の2つが考えられます。
 ① バブルが生じている(資産価格がファンダメンタルズから上方に大きく乖離している)ときに乖離が解消する過程で発生
 ② 経済・金融危機によりファンダメンタルズが激しく毀損したときに発生

①の原因については、これまで4つの視点(PERGDPバフェット指標海外売上比率)から検証した結果、現状の日本の株価はバブルと呼べる水準にはまだ達しておらず、そもそもバブルではないためバブル崩壊によって株価暴落が発生する可能性は低いものと判断します。

②に関しては、現在の株価上昇が円安による海外マネーの流入や海外売上の好調に支えられていることをふまえ、これらの流れが逆転する2つのシナリオを考えてみました。
 ②-1 急速な円高が輸出額や海外売上高の縮小を引き起こし、企業業績が悪化
 ②-2 リーマンショックのように、海外発の金融危機によって世界的に投資マネーが委縮し暴落発生

②-1 のシナリオについては、トランプ氏が大統領に当選した場合に国内産業保護のためにドル安政策をとる可能性があります。ただし、アメリカは現在インフレ抑制に努めており、安易にドル安へ誘導することも難しいのではないかと思います。

②-2 のシナリオについては、リーマンショックや新型コロナショック後の金融緩和策によって世界的に資金は相当にダブついているとされており、余剰マネーによるバブル発生と崩壊が再び世界経済を混乱させる可能性は十分にあるものと思われます。
ここでは、日本株式以外の市場における加熱度合いについて、簡単に検証してみます。

米国株式市場

まずは米国株の代表的指数である「S&P500」について、割高度を示す指標である「PER(株価収益率)」をみてみましょう。

直近のPERは、Wall Street Journal誌のサイトで確認できます。
2024年3月22日現在でS&P500のPERは、23.47倍。1年前の 17.72倍から大きく上昇しております。

S&P500のPERのチャートは、Macrotrendのサイトで確認できます。
1990年以降は20倍を中心に上下に推移しているのが分かります。直近は20倍を超過しているので、過熱気味といえます。
ただし要注意と感じたのは、PERが跳ね上がっているのが 2009年5月の122.39倍、あるいは2020年11月の36.86倍であることです。これは、リーマンショックや新型コロナショックの前ではなく、ショック後にピークを迎えていることを示しています。どのような意味かと言えば、ショックによって株価は大きく下落しましたが、それ以上に企業の利益水準が落ち込んだためにPERが大きく上昇したものと解釈できます。

ここからは推論です。
株式市場では投資家の思惑によって、株価が過熱気味になることがあります。そして思惑が逆転する時に株価は下落するわけですが、通常は調整局面と呼ばれる程度で収まります。それが暴落と言われるまでに大きく下落するのは、企業の業績悪化や金融システムの機能不全などファンダメンタルズ要因を伴う場合であって、それは株式市場の外から与えられるショックによるものです。言うまでもなく、リーマンショックはサブプライムローン市場崩壊による金融システムの機能低下を原因とするものですし、新型コロナについても株式市場とはまったく無縁の疫病が原因です。
日本の1990年以降のバブル崩壊と株価の長期低迷についても、1989年の異常な株価が修正されたことが原因というよりは、急激な金融引締めと不動産価格の下落によって不良債権が大量発生したために銀行システムが機能不全に陥ってしまったことが主因になります。

念のため申し上げておきますと、米国株が暴落する可能性は低いから投資しても問題ないと言っているわけではありません。暴落は起きないまでも割高と判断するのであれば、割安な資産に乗り換える、そこまでやらなくても新規投資は控える、といったことが投資家として実践すべき行動となります。
私自身はというと、現在の米国株の水準は割高と判断する一方、米ドル預金の金利が 4.9%(住信SBI銀行、1年定期)と高いので、米国株の何割かを売却して外貨預金に移し替えている途中です(あくまで参考情報です。投資判断は自己責任でお願いします)。

金(ゴールド)相場

世界的にありあまった投資マネーがどこに向かっているのか、株式以外の市場もみてみましょう。

金(ゴールド)のヒストリカルな価格推移は、田中貴金属のサイト(年次価格推移)で閲覧できます。
円建てでは最近の円安の影響を受けてしまうので、米ドル建て(トロイオンス当り、年平均)でみると・・
 ・1980年に 612.13ドルまで上昇したのち20年間にわたり低迷、2001年には 271.05ドルまで低下。
 ・その後、2012年に 1668.86ドルを付けるまで右肩上がりに上昇(約6.2倍)。
 ・2010年代は停滞するが、2020年に入り再び上昇基調、2023年には 1940.54ドルとなる。

リーマンショック時や新型コロナショック時にも価格が下がることはなく、さすがは「有事の金」です。

さて、金本位制の時代ならいざしらず、現在において金相場が経済・金融システムに及ぼす影響は不明ですが、国別の中央銀行の金保有量を調べてみました。
こちらWorld Gold Councilのサイト(項目名:Gold Reserves Tonnes)で閲覧できます。
最大の金保有国はやはりアメリカで 8133トンです。1グラム=1万円として、81兆円の評価額です。すごいといえばすごいのですが、アメリカの経済規模からすると金相場の影響度は限定的かと思われます。ちなみに日本の保有量は 846トンです。

暗号資産

17世紀にオランダで発生したチューリップ・バブルを彷彿とさせ、どうにも気持ちが悪いのが「暗号資産」です。

まずは暗号資産の代表格であるビットコイン(BTC)相場をみてみましょう。
Google Financeのサイトでチャートを閲覧することができます。
 ・2009年に使用開始されたBTCは、当初 1BTC当たり1ドル程度で取引されていた(中島真志著『アフター・ビットコイン』) 。
 ・その後、幾何級数的に価値が上昇し、2017年12月には 19,650ドルに到達。
 ・2018年には3000ドル台まで下落。
 ・2019年に再び急騰し、2021年3月に 61,283ドル到達。同年7月に 33,515ドルまで下落するも、11月には 64,400ドルに戻る。
 ・2022年に急落、11月には 16,452ドルまで下がる。
 ・2023年は急騰、直近(2024/3/22)で 63,814ドル

暗号資産には裏付けとなる本源的価値(ファンダメンタルズ)がないため、その存在自体がバブルなのですが、それにしても非常に激しい値動きです。

ビットコインの大きな問題点は、その保有者がごく少数の人間に偏っていることです。特にビットコインの開発者とされるサトシ・ナカモトは、100万BTC(直近レートで約10兆円)を保有していると推測されています。その価値はあとから参入した大多数の少数保有者によって維持されているわけであって、ネズミ講の形を変えた仕組みと私は考えております(あくまで個人的見解ですが、『ブラック・スワン』の著者であるN. N. タレブ氏も同様のコメントをしています)。

さて、暗号資産市場と経済・金融システムの関係を推測するのは難しいのですが、これほど価格が乱高下しているにもかかわらずニュースになっていないのは、今のところ暗号資産相場は実体経済への影響度を持っていないのでしょう。
しかし、エルサルバドルがビットコインを法定通貨に採用したり、暗号資産のETFが登場したりと、徐々にその影響度を拡大していることは気にかかるところであります。

所感

ここで検証した通り、株価の暴落を予想する際に株式市場の過熱感だけをみているのはかなり筋の悪い見立てと考えております。そして、いわゆる専門家と呼ばれる人たちが、このレベルのコメントを平気で発していることに問題を感じています。
繰り返しになりますが、暴落は起きないと主張しているわけではなく、起こるとすれば株式市場外でのショックを原因とする可能性が高いので、広く経済システムを見渡してそのリスクを探りにいかなければいけません(それでも新型コロナのようにまったく予測不能なケースもありますが)。
とはいえ、個人投資家がそこまでの分析を行うのは困難です。そこで視野の広い分析を行い、分かりやすく一般に示すことこそが、専門家の存在価値ではないかと私は考えます。

といいつつ、私自身も今回まとまりの悪い文章となってしまいましたが、このように各種のデータを調べながら文章に起こすと、自分としても投資に当たって注意すべき点が整理できます。

Follow me!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策) / Please include some Japanese word, otherwise your comment will be ignored.