株価大幅変動ー相場を動かす力

2024年8月6日

過去最大の値下がりを経験した翌日。昨日は欧米も下げていたのでどうなるかと不安を抱えつつのスタートです。
取引開始時から前日より高い値段がついて、とりあえず下げ止まった様子。このあとは買戻しが入り一気に上昇しました。

終わってみれば日経平均が前日比 3217.04円高の 3万4675.46円、TOPIXが前日比 207.06ポイント高の 2434.21ポイントと、共に過去最大の上げ幅でした。

8月7日

相場が弱い時にはここで戻り待ちの売りが入ります。
見守っていると、日経平均、TOPIXともに前日比マイナスで始まります。
しかし、日銀副総裁の「市場が不安定ならば利上げしない」発言もあり、プラスに転じました。

終わってみれば、日経平均が前日比 414.16円高の 3万5089.62円、TOPIXが前日比 55.00ポイント高の 2489.21ポイントで、8月5日の下げをほぼ取り戻しました。

バタフライ効果

ここ数日の株価の値動きは劇的でしたが、8月5日なぜここまで株価は値下がりしたのか?
一応の説明としては、日銀の政策金利上げ発表とそれに伴う円高、さらには米国景気の陰り、など悪材料が重なったことが原因とされます。そしてこの因果説に基づき、日銀が市場暴落を招いたと非難する声もあがっています。
しかし私が疑問に思うのは、きっかけは日銀の利上げだったとしても、株価を1日で12%押し下げるほどの影響力を持っていたのかということです。ここで思い出すのが、「バタフライ効果」です。

バタフライ効果とは、気象学者エドワード=ローレンツの言葉「ブラジルの1匹の蝶の羽ばたきはテキサスで竜巻を引き起こすか?」に由来し、「非常に小さな出来事が、体系全体に予想もできないような大きな出来事につながる現象」をさします。
今回でいうと、①日銀の利上げが一部の市場関係者に金融緩和から金融引き締めに転換したとの懸念を抱かせたこと、②円高や米国金利不安がこれまで株価をけん引していた輸出産業やグローバル企業の業績に悪影響を及ぼすこと、③このような不安により投資家が株式から安全資産へ資金を待避させたこと、④これらの動きを見越した投機家が先回りで売り浴びせたこと、⑤株価の急落が信用買いの投資家に追証を発生させ損切りをやむなくさせたこと、等の出来事が連鎖的に発生し、大幅下落をもたらしたと考えられます。
しかし私がここで思うのは、バタフライ効果は常時発生しているわけではないということです。世界中にどのくらい蝶がいるのか、数百億匹かもっと多いのか知りませんが、それぞれの蝶が毎日何千回も羽ばたきをしているわけで、その1回1回が竜巻を引き起こしていては地球の気象がとんでもないことになってしまいます。蝶の羽ばたきが気流を若干乱したとしても、気象体系にはそれを平衡に保つ力を有しているはずで、我々は普段竜巻に会わずに済んでいるわけです。もし、ブラジルの蝶のたまたま1回の羽ばたきがテキサスの竜巻の原因となったとしても、それは気象体系に竜巻を起こす寸前の大きな歪みが存在したはずで、小さな蝶はその最後の一押しをしたに過ぎません。最後の一押しは、アフリカのライオンのくしゃみでもなりえたし、南極大陸の氷山の崩壊でもなりえたでしょう。

株価についていえば、日経平均が1日に10%も下落するような状況はブラックマンデー(1987年10月20日)の▲14.9%以来で、滅多に発生する事象ではありません。通常時において株価が安定的に推移しているのは、その株式を「売る力」と「買う力」が拮抗しているからです。両者のバランスは常に一定ではなく変動することが株価を動かす要因となりますが、その変動は通常小さなものです。しかし、両者のバランスが何かの要因で崩れたときに株価が大きく変動します。その要因は、業績悪化の発表など突発的な出来事であることもあります。それ以外にもバランスを乱すような潜在的な歪みが積み重なり、それが何かのきっかけで顕在化した時に「買う力」を一時的に無力化し、株価を大きく下落させるということもあります。
今回の件もそれまでに市場に潜在的な歪みが生じていたものと考えます。その歪みを解消するきっかけが政策金利上げだったというわけで、大幅下落の全責任を日銀に負わせるは少々酷な気がします(日銀は蝶というには大きすぎですが)。

今回の株価大幅下落をもたらした歪みは何か

潜在的な市場の歪みを目に見える形で示すのは難しいですし、できたとしても株価下落との因果関係を実証するのはさらに難しいと承知しています。よって仮説に基づくお話になることをご了承ください。

今回の株価下落の要因となった歪みは、「①新NISA導入などに伴う株価の大幅上昇」「②ここ数年来の持続的な円安」「③金融緩和から脱せない金融政策」などであったと推測します。
このうち②円安、③金融緩和については、国民生活への悪影響(インフレ、ゼロ預金金利など)という副作用があるが、株価維持・上昇のためにわかっちゃいるけど止められない、そのように市場関係者に見透かされていたところ、急に日銀が健全化を目指すということでサプライズを与えたのでしょう。この点についてもう少し深掘りしたいのですが、回を改めます。

ここでは、株価上昇が生み出す歪みについて簡単なテクニカル分析をします。

青線が日経平均(月末終値)、赤線が24か月移動平均です。24か月移動平均は、その月を含む過去24か月(2年)の終値の平均で、短期的なブレを除去した株価水準で長期的なトレンドを示すとされています。

データの取得開始が2012年12月末からで、アベノミクス相場以降現在(2024年8月7日)までの株価上昇期間を範囲としています。このため赤線の移動平均は、緩急はありますが右肩上がりの曲線となっています。これに対し青線の日経平均は、「赤線を上回って上昇」した後は、「赤線まで引き戻されるように下落」し、「赤線とぶつかってしばらくすると上昇を再開」する、を繰り返しているのが見て取れます。これが長期的な上昇相場時の特長で、赤線が下支えとなって上昇しているようにみえることから、移動平均は「下値支持線」とも呼ばれます。

もう少し株価の上昇期、停滞期を分けて分析してみましょう。青ぬりが上昇期、赤ぬりが停滞期です。また、日経平均(青線)の移動平均(赤線)からの乖離度(=日経平均 ÷ 移動平均 - 100%)に注目です。

我ながら驚くほどにきれいな規則性が現れました。大まかにいって、2012年からの株価変動は「プラス50%前後の上昇期」と「マイナス10~25%の停滞期」を繰り返しています。

停滞期の始まりにおいて乖離度は15%以上となっています。これは日経平均(青線)が移動平均(赤線)を15%以上上回っていることを意味しており、長期トレンドを超えて株価が大きく上昇している状態です。乖離度が15%を超えたらすぐに停滞期が始まるのではなく、しばらくは株価上昇が続き乖離度がさらに広がっていきます。これは停滞期の始まりは何かのきっかけが必要だからと推測します。そして一旦停滞期が始まると、日経平均は移動平均に吸い寄せられるように下落していきます。
移動平均を超えて株価を上昇させるのは、投機的・短期的な投資資金の力と考えられます。しかしその力は無限ではなく、ある程度まで乖離が進むと今度は移動平均に押し戻す力が働いているようにみえます。

移動平均水準に戻った日経平均は、その後数か月は移動平均と共に推移します。しかし、また何かのきっかけで日経平均は移動平均を上回る上昇を開始します。これが上昇期の始まりです。上昇期は、アベノミクス相場初期の①と③を除き、乖離度マイナス水準から始まっています。一旦上昇期が始まると、日経平均は力強く約50%の値上がりをします。その間に乖離度はどんどん上昇し、そして乖離度が一定水準に達すると、また何かのきっかけで株価を移動平均に押し戻す力が働きはじめます。

日経平均と移動平均の乖離度は、先に述べた市場の歪みを表す指標の一種です。歪みが大きくなるのが上昇期、歪みが解消されるのが停滞期、ということもできます。

さて、今年に入ってからの状況を見てみましょう。今年3月に日経平均は初めて4万円を突破しました。しかし、その後しばらくは4万円を下回る水準で推移。7月上旬には再び上昇し4万2千円台をつけましたが下旬には下落。そして8月になって今回の大幅下落です。
これらの動きを振り返ると、今年3月で上昇期は終わり、既に停滞期が始まっているのではないかと推測されます。すると、今は歪みを解消する時期となります。これまで停滞期では約1年間かけて約20%の調整が行われます。ところが今回8月1日~5日の3営業日だけで約20%の下落、とかなり急激な調整が行われました。ここまで急な調整が行われた理由として、株価上昇による歪みだけでなく、持続的円安や金融緩和政策による歪みも加わったため、巨大な調整力を生み出したものと推測します。

このたび株価は大幅下落したものの、その後2日間の戻りにより3万5千円程度を確保しており、移動平均をまだ上回る水準です。よって、今回の一連の株価の動きは急激ではあったものの2022年12月からの上昇期に生じた歪みの調整に留まっており、株式市場に変調をきたしたとまでは現段階では言えないでしょう。

株価の長期変動要因

上の議論において、「移動平均を本来あるべき水準とし、そこからの乖離を歪みとみなす」という前提で話を進めていました。しかし、移動平均もゆっくりとではありますが変動しています。上のグラフで示すとおり2012年以降において移動平均は上がり続けています。一方、1990年代前半のように移動平均が下がり続けることもあります。

それでは移動平均を動かす力は何であるのか。
私は、それは株式の裏付けとなる「企業の業績(ファンダメンタルズ)」であると考えます。ここで以前の記事を再掲します。

2013年1月末、TOPIXは 940.25、東証第一部の企業の純利益合計額は 13.9兆円(連結、データソースはPERと同じく日本取引所)でした。

2022年4月、東証の最上位市場が、第一部市場からプライム市場に改変されました。市場の構成社数は多少減りましたが、利益総額はほとんど変化していません(22年3月 第一部の純利益合計額 36.2兆円 → 22年4月 プライム市場の純利益合計額 36.0兆円)。

そして2024年1月末、TOPIXは 2551.10 と11年間で約2.7倍になりました。それに対してプライム市場構成企業の純利益合計額は 48.6兆円と約3.5倍に増加しています。

すくなくとも2012年以降の移動平均の安定的上昇は、企業業績(純利益)の伸びで説明できるでしょう。そして、今後も株価が上昇傾向にあるかどうかは、これからの企業業績の成長にかかっています。

今後の株価予想

これまでの分析を踏まえ、今後の株価の動きについて大胆予想です。もちろん保証はできませんので、仮説の一つとして読み流してもらえればと思います。

2024年3月に株価はピークをむかえ、今は停滞期に突入している。2024年8月7日現在、日経平均は 35,089円に対し24か月移動平均は 32,720円なので、まだ調整は終わっていない。
停滞期間を12か月とみて2025年3月ごろまで日経平均は3万3千円まで下落する。
それまでに企業業績が成長していることが確認できれば、4月ごろより株価は再び上昇期に入る。上昇期における株価上昇率は50%程度であるので、2026年には日経平均は5万円を突破する。

いかがでしょうか。企業業績が成長していることが前提条件で、逆に業績が低迷することになれば上昇期ではなく下降期に入る可能性もあることにご留意ください。

所感

私が経済関連の報道に対しいつも不満に思うのが、今回のような株価大幅下落が生じると、株式投資はやはりギャンブルであり一般人が手を出すのは危険、という識者のコメントが紹介されることです。「新NISAは政府がしかけた詐欺」というコメントに至っては、不満を通り越して悲しい限りです。

株式は、馬券や宝くじのような1回限りのギャンブルチケットではありません。我々の日常生活の大部分は、好むと好まざるとにかかわらず、上場企業の活動に依存しています。上場企業は、消費者にとっての商品・サービスの提供元であるのはもちろん、生産者にとっての販売先であり、多くの従業員の雇用を生み出し、法人税等の納入による国家財政の担い手でもあります。そして株式とはこれら上場企業の所有権です。その価値の裏付けは上場企業の活動の成果であり、さらにその基本となるのは国民の日常生活です。株式投資はギャンブルという識者は、上場企業の活動を、さらにおおげさにいえば資本主義を否定していることに気づいていないようです。

とはいえ、日々の株価は投機的・短期的投資によって大きく上下しており、虚像のようにみえるのは無理からぬところがあります。しかし目をこらせば、この虚像はまったくの夢まぼろしではなく、その奥に企業価値という実像が存在することが見えてきます。もし虚像が上方にせよ下方にせよ実像から大きく乖離すると、前述の歪みが大きくなり、何かのきっかけで実像に戻ろうとする力が働きます。

長期投資にあたっては、「企業価値という実像を見極める力をもつこと」「日々の株価は実像を基とした虚像であると認識すること」が求められます。この2つができれば、実像と虚像を比較して後者が小さくなっているとき(すなわち企業価値(実像)>株価(虚像))が買いどきと判断できます。


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