スクリーニング銘柄(2024年)の年間成績
2025年5月末
昨年6月、配当狙い投資のための長期安定成長企業をスクリーニングした35銘柄を公開しました。
この類のスクリーニングされた銘柄リストはネットや雑誌でよく見かけるものの、そこに投資していたらどのような結果になったのか、事後検証されているのをほとんど見ません。言いっぱなしは無責任ですし、また自分の成績と直面するのは辛いことも多いのですが、反省がなければ改善もありません。
そのように考え、2025年3月決算が出そろったこのタイミングで当スクリーニング銘柄のこの一年間における成績について(おそるおそる)検証します。ここで検証は、業績面と投資パフォーマンス面の2つの側面から行いました。
◎業績検証
銘柄スクリーニングにあたり、業績が長期にわたり安定的に成長している点を重視しているので、直近の決算および来期の予想決算において業績が実際に成長しているかを検証する必要があります。ここでは以下のとおり4項目を分析しました。
①今期決算(対前期比)
今期決算(2024年4月末~2025年3月末)において、売上高・営業利益・当期利益が対前期比でどの程度変動したかを示しました。下記の表の各セルにおいて、増加していればピンク、減少していればブルーに色付けしています。
ピンクのセルが多く、大半の企業において業績が伸びていたことが分かります。平均値で見ると、売上高 +6.8%、営業利益 +16.3%、当期利益 +16.9%と全般的に業績好調です。
一部大幅に減益した企業があります。中でもランドコンピュータに関しては最高スコアを付けていたにもかかわらず減益です。要因を調べると、不採算プロジェクトの発生とのことです。同社は2015年上場と比較的最近であり、長期的な業績を分析するにはデータが不十分だった可能性があります。少なくとも今世紀最大の金融危機・リーマンショック(2008年)の影響を反映してないのであればスコアリングの精度は不十分と思われ、今後の改善点とします。
②来期予想(対今期比)
各社の公表する来期決算予想に基づき変動率を計算しました。
トランプ関税ショックの影響を受けたのか、今期決算よりは控え目な数値が目立ちます。特に当期利益に関しては、減益予想(ブルーのセル)をしている企業が過半数を占めています。平均値で見ても、売上高 +2.5%、営業利益 +1.9%、当期利益 ▲2.7%と今期よりは苦戦することが予想されています。
③安定成長スコア
①②の決算データの更新を受け、スコアがどの程度変化したのかを示しました。ただし、このスコアは長期的な決算データに基づいて計算しているため、今回2期分のデータ更新ではスコアはあまり変動しません。1年前の公開時には小数点以下を四捨五入して整数化していたのですが、それではほとんどスコアが動かないので、ここでは動きがみえるように小数点第一位で丸めています。
そして各社の変動をみると、今期決算の好調を受けてスコアが上昇している企業が多いことが分かります。
④増配率
昨今の物価高を考慮すれば、インフレ率以上に増配してくれないと配当金の実質的な目減りとなります。
では対象銘柄の成績はというと、今期実績・来期予想ともにほとんどのセルがピンク色、平均値で見ても今期実績 +15.4%、来期予想 +6.3%とこれらの企業が増配を積極的に行っていることを示しています。


◎投資パフォーマンス検証
配当狙い投資は長期保有を前提としているとはいえ、投資の一つである以上そのパフォーマンスを定期的に検証する必要があります。ここでは2024年5月末に投資した場合の1年間の投資パフォーマンスを計算しました。
①株価騰落率(キャピタルゲイン)
配当狙い投資は長期保有が基本であり、キャピタルゲインを目指すものでありません。それでも、必要に応じ換金する場合を想定すれば、株価は値上がりするに越したことはありません。
対象銘柄の実績をみると、イフジ産業の+50.5%からヤマハ発動機の▲27.6%までまちまちです。株価を下げている銘柄については今期減益となった先が多く、利益水準と株価との間の相関の高さがうかがえます。
平均値は +3.3%と、TOPIXの +1.0%や日経平均の ▲1.4%よりは良好です。ただし各銘柄のバラつきを考慮すれば、この差は誤差の範囲ともいえます。
②実績配当率(インカムゲイン)
今期における1株当り実績配当金を2024年5月末の株価で割って計算しました。予想配当利回り3%以上をスクリーニング条件にしていたため、各銘柄とも実績配当率は総じて高く平均して 4.0%です。そしてこの配当率は、東証プライム企業の 2.4%、日経平均の 2.1%を大きく上回っています(高利回りで安定した配当金収入が、配当狙い投資の一番の目的なので当たり前といえば当たり前の結果ではありますが)。
③総合収益率(キャピタルゲイン+インカムゲイン)
①と②を合算した総合収益率は、平均 +7.3%とまずまずの水準でした。ただし、銘柄によるバラつきが大きいことに留意が必要です。


◎まとめ
●業績検証
・今期決算は総じて好調。ただし一部大幅減益企業あり。
・来期決算予想は、今期よりは低下。当期利益は平均して減益を見込む。
・多くの企業で増配に積極的。
●投資パフォーマンス検証
・株価騰落率(キャピタルゲイン)は平均して +3.3%とTOPIXや日経平均を上回っているが、銘柄によるバラつきが大きいことに留意。
・株価騰落率と利益変動率実績の相関は高い。
・実績配当率(インカムゲイン)は平均して 4.0%と東証プライム企業の平均や日経平均を大きく上回る。
●総評
・業績面、投資パフォーマンス面とも平均してみれば好調。しかし、個別で見ればバラつきが大きく分散投資の重要性を改めて思い知らされます。
・長期安定成長企業であっても業績悪化することはあるものの、その後速やかな回復をみせるのか注視する必要があります。
・ランドコンピュータのようにリーマンショック後に上場した企業については実績データが不十分な可能性が高く、スコアリングモデルの改善が必要。
この後、最新データに基づく再スクリーニングと、それにより抽出された銘柄の個別分析を順次行っていく予定です。当スクリーニングを参照されている皆さまには、少しお時間をいただければと思います。