雑草考
2024年8月28日
またもや雑草の話題で恐縮です。
しかし、夏場の庭仕事は雑草抜きでは語れないのです。
和辻哲郎はその著書『風土』において、風土は人間の在り方を決める要因(人間存在の構造契機)であるとして、3つの風土の類型(モンスーン型、沙漠型、牧場型)について述べています。
日本は「モンスーン型」に分類されます。その気候の特性は、暑熱と湿気、台風などの自然の暴威です。そのような風土のもとで人間は自然に対して受容的・忍従的になる、とします。そして、自然の暴威の一つである「雑草」について以下のように語っています。
日本の農業労働の核心をなすものは「草取り」である。雑草の駆除である。これを怠れば耕地はたちまち荒蕪地に変化する。(中略)それは日本における最も苦しい時期—従って日本の住宅様式を決定している時期、すなわち暑熱の最もはなはだしい土用のころに、ちょうどそのころを繁茂期とする根強い雑草と戦うことを意味する。この戦いを怠ることはほとんど農業労働の放擲に等しい。
・・さすがの観察眼です。まさに日本の夏は雑草との戦いに明け暮れます。
モンスーン型の日本に対し、より気候が平穏なヨーロッパの風土を「牧場(まきば)型」と和辻は分類します。夏は乾燥するという気候もあり、ヨーロッパでは雑草は生えず、害虫の発生も少ないという特性を有しています。このためヨーロッパにおける農業では自然と格闘する必要が少なく、そのような風土の下で人間は自然を服従するものと考える、と論じています。
最初この文章を読んだとき雑草の生えない庭というのが想像できなかったのですが、日本でも秋冬になれば庭は静かになります。ヨーロッパでは一年を通じてそのような環境なのでしょう。もし夏の労苦を体験せずにすむとすれば、確かに自然との向き合い方は変わってきそうです。
話をわが家に戻します。
3週間前に草刈りをしたのが、もうここまで元気に伸長しています。しかも、この時期は秋を間近に、雑草も実りの季節を迎えています。
ここで、わが家における夏の3大雑草を紹介します。
まずは、カヤツリグサ。
最上部に三方へ伸びる長い葉をもち、その葉元に穂をつけます。一本一本は簡単に抜けるのですが、細身であるため見過ごしがちで、気が付けばすでに実をつけている厄介な雑草です。
つづいて、メヒシバ。
先端に放射状に伸びる穂をつけます。
根はしっかり張るため、草取りには労力を要します。しかも根元を残してしまうと、すぐにそこから伸びてきてしまう厄介な雑草です。
そして、エノコロ。
ネコジャラシの異名でよく知られます。
メヒシバと同じく、しっかりと根を張り、刈ってもすぐに成長する厄介な雑草です。
以前紹介した通り、エノコロは粟の原種でその実を食用することができます。実際に試食しているブログを拝見したところ、炒って食べると香ばしくそれなりに美味しいとのことです。
一口に雑草といっても、その種類は豊富であり、彼らの中で激しい生存競争があります。その中で勝ち残って繁茂しているこれら3種類の草は、繁殖力旺盛なたくましい存在なのです。
そんなたくましい彼らと戦うには、こちらも気合をいれて取り組まなければいけません。
刈ってそのまま放置したのでは、種子がばらまかれて来年より一層困難な状況になります。そこで手間はかかるのですが、穂を見つけるたびに摘み取り、ゴミ袋に入れて捨てるようにしています。
そのうえで、草刈りをしました。もちろんこれで完全制御とはいきませんが、多少なりとも勢力を弱めることで、来年の労苦を軽減できればと考えています。
もう一つ力を入れているのが、「草をもって草を制する作戦」です。
雑草を抜いてもまた別の雑草が生えてきます。であれば、雑草のうち草丈の低いものを繁茂させることで、庭の景観を維持しようとするものです。
そこで期待しているのが、カキドオシ。
地面をはうように伸びていき、見た目もよいのでグランドカバーに最適です。
草刈機を使用する時には地面とすきまを開けるようにすることで、草丈の高い雑草は刈りカキドオシは残すようにしています。
なお、以前この草をツボクサと紹介しましたが、調べてみるとカキドオシのようです。
両者は非常によく似ているのですが、ツボクサはセリ科、カキドオシはシソ科の植物です。
カキドオシは茎が方形で、葉が対生(茎から葉が向かい合って生えてくること)であることが特徴なので、わが家のものはおそらくカキドオシです。
花は全く異なりますので、来年春になればはっきり判別できると思います。
日本の夏は、雑草だけではなく作物も大きく育成する力を持っています。雑草や害虫そして自然災害を克服できれば、ヨーロッパなどよりも高い土地生産性が期待できるということです。現在の日本の人口は1億2千万人で、1平方キロメートル当たり人口密度は345人。山地が多いにもかかわらずドイツ(239人)やフランス(117人)といった大半のヨーロッパ諸国よりも人口密度が高くなっています。さかのぼって江戸時代中期に日本の人口はすでに3,000万人を突破していました。国際比較は難しいのですが、当時もヨーロッパ諸国を上回る人口密度だったのでしょう。そして、この高人口密度を支えたのが、日本の夏がもたらす農業生産性の高さであったと推測できます。もちろん農業生産性の高さを発揮するためには、和辻が指摘した通り、日本における自然の暴威を克服するための忍耐強い労働が必要となります。このような風土のもとで自然と受容的・忍従的に向き合ってきたため、我が日本人が「コツコツ真面目」を最重視するようになった、とする説は非常に説得力があります。
話が大きくなりましたが、私も日本の風土に生きるものとして雑草に対し受容的・忍従的に向き合っていきたいと思います。