日本の株価はバブルなのか ② バフェット指標
バフェット指標とは
2024年3月10日
前回に引き続き、現在の日本の株価に関する検証です。
経済評論家のなかには「バフェット指標」の高さを理由に、「世界的にバブルが膨らんでおり、はじけて暴落するのも間近」と主張する人がいます。
バフェット指標とは、その国の株式時価総額を名目GDPで割った値のことです。
著名な投資家であるウォーレン・バフェット氏が、株式市場全体の割高度をみるために参考にしているとされる指標で、100%を超えたら株式市場が実体経済を上回っているため、割高と判断されます。
$$バフェット指標=\frac{株式時価総額}{名目GDP}$$・指標が100%を超えていたら割高と判断
日本のバフェット指標
それでは早速、日本のバフェット指標をみてみましょう。時価総額は東京証券取引所上場企業の2024年2月末(日本取引所グループのサイトより入手)、名目GDPは2023年度(内閣府のサイトより入手)です。
・時価総額:977.2兆円・・①
・名目GDP:591.5兆円・・②
・バフェット指標:165.2%・・①/②
100%を大きく上回っているので、かなり割高と判断されます。
ヒストリカルな推移をみてみましょう。(東証時価総額は各12月末の値を適用。名目GDPの1993年以前は内閣府の長期経済統計から取得しており1994年以降と不整合。)
・1980年代に急上昇した指標は、1989年のバブル期にピークの150.7%を記録
・その後、バブル崩壊により50%前後まで低下。
・2005年に100%を回復するが、リーマンショックにより再び50%水準に下落。
・2013年以降はアベノミクス相場の効果により今に至るまで上昇基調
といった動きです。
2024年に入ってバブル期を上回る水準に達成していますので、やはり割高水準とみることが可能です。
世界のバフェット指標
日本以外の世界各国におけるバフェット指標はどの程度の水準でしょうか。
CEIC data社のサイトでは、世界各国のバフェット指標を紹介しています。
よそさまの分析データですので詳細はリンク先をご覧いただきたいのですが、世界各国概ね100%を下回っています。
ところが100%を大きく上回っている国もあり、ざっと眺めたところでは、スイス(188.2%)、台湾(195.3%)が目に入りました。
スイスの時価総額上位は、ネスカフェで知られる「ネスレ」、製薬会社の「ノバルティス」「ロシュ」が3強です。
台湾の株式市場では、熊本での半導体工場建設で話題になった「台湾セミコンダクター(TSMC)」が圧倒的な巨人です。
これらの企業はグローバルに活躍をしており、本国での売上高はおそらく1割にも満たないでしょう。そのようなグローバル企業の時価と本国の経済規模を比較すれば、指標の比率は上がってしまうのも当然と思われます。
肝心のアメリカはというと、このサイトでは 158.4% と紹介されています。ただしデータが2022年とやや古いです。
もう少し新しいデータを探したところ、こちらLongtermtreds社のサイトでは 184.5% と計算しています。
2021年頃よりは回復しているようですが、それでも依然としてかなりの高水準にあります。
バフェット氏の選択は?
さて、当のバフェット氏自身はバフェット指数を用いてどのような投資判断をしているのでしょうか?
ちなみにバフェット氏率いる投資会社・バークシャーハサウェイ社(以下、BH社)が、日本の五大商社(三菱商事、三井物産、住友商事、伊藤忠、丸紅)への投資を開始することで話題になったのが2020年です。
そのBH社の投資先をみてみましょう。
公式書類である米国証券取引委員会への報告(Forrm 13f)には、米国市場上場の投資先しか記載されていません。そこで米国以外を含む投資先一覧を探したところ、こちらCNBCのサイトにありました。
本社がアメリカ以外の投資先とそのシェアは以下の通りです。
・日本の五大商社・・計 6.09%
・BYD Co.(電池メーカー、本社:中国)・・ 0.58%
・AON PLC(人材関連コンサルティング、本社:英国)・・ 0.36%
・Diageo plc(酒造会社、本社:英国)・・ 0.01%
以上、合計 7.55%です。すなわち残り 92.45% はアメリカ企業です。
BH社は、バフェット指標を用いた国際分散投資をしていないのでしょうか?
バフェット氏のアジア投資姿勢に関する記事が、こちらNikkei Asia(英語)に載っていました。これによれば、BH社が本格的な海外投資を始めたのは2002年のペトロチャイナからになります。しかし、そこからアジア投資に本腰を入れたかといえば、そうではありません。
同記事には、「バフェット氏はアメリカでの投資機会が薄くなるまで米国株以外への投資を真剣に検討していなかった」とあります。
さらにWikipedia(英語)でバフェット指数(Buffett Indicator)を調べると、やはりバフェット氏はあくまで米国株の割高度評価のためにこの指数を使っているだけであって、国際分散投資のために他国の評価を行っているわけではありません。実際に、アメリカのバフェット指標が200%近くに達しているにもかかわらず、例えばドイツ(47.9%)のように指標値が低い国の株式への資金移動は全く行っていません。
「投資の対象は、自分に理解できる“シンプルなビジネス”に限るべきだ」というバフェット氏が、バフェット指標だけを頼りに実態をつかみにくい米国以外の企業へ投資しないのは当然かもしれません。
他国株式への資金移動は行っていなくても、危険回避のため現預金や債券の割合を増やしている可能性もあるので、そこも調べてみました。
BH社は傘下に収めた企業のビジネスも行っているため、そのバランスシートをみても純粋な投資ポートフォリオを示しているわけではありません。と、おことわりしたうえで2022年と23年のバランスシート項目を比較しました。
さて、米国債短期投資額は増やしていますが、株式投資についても金額が増えていますので、特に株式を売却して安全資産に待避させているようには見えません。
長期投資を旨とするバフェット氏は、相場が過熱しているから購入しないという判断はあっても、保有株を売却するという行動にはでない、ということでしょう。
こうしてみてみると、当のバフェット氏は、バフェット指標を米国以外に適用して国際分散投資を行っているわけではないですし、現在のアメリカのように指標が高い値を示したからといって安全資産への待避を行っているわけでもありません。
冒頭にあげた経済評論家は、バフェット氏の意図を超越してバフェット指標を幅広く適用している、といえます。
所感
バフェット指標に関しては、どうも指標だけが都市伝説的に独り歩きしているようです。
そもそも、大企業のグローバル展開がこれだけ進んでいる現状、株式市場規模と一国の経済規模と比較することにはあまり意味があるとは思えません(世界経済との比較であれば別ですが)。
よって、アメリカはともかく日本についてはバフェット指標だけから割高割安を判断するのは難しいものと考えます。
私としては、今の株価がバブルであるとする評論家を論破したいわけではありません。そうではなく、何かの判断をする際には、正しい情報によらなければ大きな誤りをおかすことを懸念しています。割高、もしくは高リスクということであれば、十分な根拠のある情報が欲しいだけなのです。
※ 末筆ながら、今回さまざまなサイトを参照させていただきました。ここに感謝いたします。ただし、その情報の正確性については責任は負えないことをご承知願います。