投資手法について―どこにいかに投資するか
投資手法とは
投資を始めるにあたっては、まずはどの資産に投資するのか決めないといけません。株式、FX、債券、不動産等々です。
株式であればさらに、日本株か外国株か、大型株か小型株か、グロース株かバリュー株か、といった選択肢があります。
投資資産が決まったら、まずはその資産を購入し、その後いずれかのタイミングで売却し資金を回収します。投資で利益をあげるためには、その資産が割安のうちに購入し、値段が上がってから売る必要があります。(それ以外に割高銘柄を空売りする方法や配当収入目当ての投資方法などもありますが、とりあえず横に置いて話を進めます)
と、ここまで何を当たり前のことを書いているのだと思われたかもしれません。ところが、いざ投資を始めてみると、いつ何を買えばよいのか、買った資産についてはいつ売ればよいのか悩むことになります。
購入時には、本当にその資産が値上がりするのか、逆に値下がりして損失を出さないか心配になります。
より難しいのが売却時で、値上がりした場合にはこのまま保有していればさらに値上がりするのではないかと欲が出ますし、値が下がったら下がったで損切りするか、回復を待つか、迷いが生じます。
迷いばかりでは投資活動がままなりませんし、利益も上がりません。そこで、「売買判断基準や売買タイミングな投資活動をルール化しパターン化する」こと、すなわち「投資手法」を定めることで効率的かつ効果的な投資活動を行えるようになります。特に「パターン化」は重要で、1回うまくいった投資行動を繰り返し再現することで利益を膨らませていくことが可能となります。そしてパターン化をするためには、自らの投資活動を「ルール化」しなければ繰り返しの実行ができなくなります。ルール化を行うもう一つのメリットしては、1回の投資活動で失敗をしたときでも、その反省をふまえてルールを改良することが可能となります。投資においては利益を出すことより、むしろそれ以上に損失を抑えることが肝心です。
投資目的、投資可能金額など
さて、自分の投資手法を定める前に、明確にすべきことが数点あります。それによって、採用すべき投資手法が変わってきます(当たり前のことを並べているようですが、雑誌等で紹介される投資手法がこの辺りをあまり明示していませんので記しました)。
●投資目的、投資目標
何のために投資を行うかという「投資目的」といつまでにいくらぐらい資産形成したいという「投資目標」は、必須ではありませんが、定めておいた方が望ましいです。というのは、ひとは心の弱さから特に損失が膨らんだ際に冷静さを失った投資行動をとりがちだからです。
この目的・目標は、「教育資金のため5年後までに300万円貯める」といった具体的なものでもいいですし、そこまででなくとも「現在20代で将来はよく見えていないが老後資金を数千万~1億円貯めたい」といった少々抽象的なものでも構わないですし、「とにかくゲーム感覚で数十億円の資産を形成したい」といったものでもよいかと思います。
●投資可能金額
手持ちで投資可能な資金、および今後給与などから定期的に積み立て可能な金額を明確にします。投資可能金額により取りうる投資手法に制約を受けるからです。例えば、個別株投資を行うとした場合、数十万円以上要する銘柄が多いですし、さらに分散投資をするのであればより多くの資金が必要です。
●投資活動にさける時間
専業投資家ならともかく、普通に働いているひとの時間は限られています。毎日日中にデイトレードを行うのは無理ですし、そこまでいかなくとも、多くの企業を対象に詳細な分析をおこなうとかなりの時間をとられます。デイトレードや複雑な投資手法は魅力的であっても、時間をとられるものが多く、自分として投入可能な時間との見合いで検討する必要があります。
絶対にもうかる投資手法はあるか?
このお題に入る前に、投資で利益を上げる条件をおさらいです。
「その資産が割安のうちに購入し、値段が上がってから売ること」
ここで、自分としては割安と判断してその資産を購入するまではいいのですが、値段が上がるためには他の投資家が後から割安だということに気づき買いを入れてもらわねばなりません。すなわち他の投資家たちの買い注文を先回りして購入することが求められます。逆に言えば、自分が買いを入れても他の投資家が追随しなければ、値段は上がりません(そしてそのようなことは非常によく起こります)。
さてお題に戻り、「絶対にもうかる投資手法(=絶対に他の投資家の先回りができる投資手法)はあるか?」の問いに対し、教科書的には「そのようなものは存在しない」という答えになります。なぜなら、そのような投資手法があれば他の投資家も採用するはずで、そうなれば誰も先回りができなくなり、この投資手法が無効になる、という理屈です。
それでは全ての投資手法は無効かと言えば、世を見渡せばバフェットさんは別格としても、数十億円の資産を築き上げた個人投資家たちがいるわけで、彼らの投資手法は絶対とはいえないまでも高確率でもうかる手法ではないかと思われます。一方で、そのような投資手法が有効であり続ける理由としては、言語化できないその投資家ならではの「努力」と「コツ」のようなものがあるとも考えています。もしそうだとすれば、優れた投資手法の核心部分は残念ながら学習できないものということになります。職人の世界でいうところの、頭で覚えるものではなく、体で覚えるものなのかもしれません。
また、自分に向いた投資手法も人それぞれで異なります。われわれは、先人の投資手法を参考にしつつも、実践経験を重ねながら自分なりの手法を体得するしかないのでしょう。
投資手法の設定
それでは自分なりの投資手法を体得するとして、着目点はどこでしょうか。
実は「投資手法」について明確な定義があるわけではないのですが、私は少なくとも以下の三点をルール化すべきポイントと考えます。
⓵ 売買基準の設定
② 保有目安期間の設定
③ 分散度合いの設定
なお、機関投資家であればここに「リスク許容度の設定」が入ります。投資活動に際してどの程度までリスクを取ってよいか、その限度を定めるものです。しかし個人投資家が定量的なリスク許容度を設定するのは困難なので(私も設定していません)、ここには挙げませんでした。
しかし、金融危機は意外に頻繁に発生します。それに備えるためにも、何らかのリスク管理基準を投資手法に織り込んだ方がよいと考えており、回を改めて説明するつもりです。
⓵売買基準の設定
なにはさておき、これが最も重要です。
先にも述べた通り、買入の際には後から他の投資家が追随するとの裏付けが必要です。
この裏付けを得るための分析方法としては、ファンダメンタルズ分析とテクニカル分析が知られています。
ファンダメンタルズ分析とは、投資先資産の経済価値(株式であればその企業価値、FXであればその通貨発行国の経済情勢等)を統計的に分析する手法です。分析の結果得られる経済価値と市場価格を比較し、割安であれば買入、割高であれば売却します。
テクニカル分析とは、過去の相場の値動き(チャート等)を元にして将来の相場を予想する方法です。いわば投資家の行動分析です。分析の結果、投資家の買いが集まるサインが出たら買入、逆に売りが集まるサインが出れば売却します。
両者は、投資先を評価するか、その値段を決める投資家の行動を評価するかの違いです。一般的には、ファンダメンタルズ分析は中長期保有向き、テクニカル分析は短期売買向きとされています。一長一短ありますので、どちらか一方ということではなく両者を併用することも可能です。ちなみに私は、ファンダメンタルズ分析で投資先を決め、チャートによりその売買タイミングを見計らっています。
買入より数倍難しいのが、売却基準です。売却は自らの運用成績を確定させる作業であり、どうしても待てば値上がりする(=成績がよくなる)のではないかという煩悩との戦いになります。迷いを減らすためにも、予め売却基準を設けておく方が望ましいです(それでも基準を破ってしまいたいという煩悩との戦いは続きますが)。
売却基準設定のポイントは2点、値上がり時の利益確定基準と値下がり時の損切り基準です。
ちなみに私は、値上がりにより配当利回りが低下したら売却、値下がり時には約20%の含み損が発生したら損切りする、ということを原則的な基準としています。
② 保有目安期間
資産を買入してから売却するまでの目安とする期間です。大きく分ければ、数分から数週間を目安とする「短期売買」とそれ以上の「中長期保有」の2種類です。「短期売買」か「中長期保有」かで、設定すべき売買基準や分析手法が大きく変わりますし、取引や分析に要する時間も変わります。
一般的に、短期売買の方がうまくいけば高い利益を上げられるとされますが、その分厳密な売買基準が必要ですし、取引や分析にかける時間も長くなります。
③ 分散度合いの設定
ここでいう分散は、株式投資における銘柄分散や、株式・債券・不動産等の資産間分散、日本・米国・欧州・新興国等の国際分散を含みます。
一般的に、集中度合いを高めるほど、うまくいった場合の利益は大きいですが、失敗した場合の損失も大きい、いわゆるハイリスクハイリターンな投資になります。ただし手持ち資金が少ないうちは、資金量の制約もありますので、あえて集中させてまずは増やすことを目指すという投資手法はあり得ると考えます。
そして、ある程度まで資産が形成されたら、その度合いに応じて分散投資を図る方がリスクが抑えられるので望ましいとされます(あくまで攻め続けるという方であれば、もちろん止めはしませんが)。一方で分散投資を行うにあたっては、それだけの資金量と知識・分析量が求められますので、やみくもに分散させればよいというものでもありません。