REITの信用買い

1. 信用取引とは

信用取引は、短期的な売買による「サヤ取り」を目的として行われることが多い取引です。証券会社から資金を借りて株式等を購入する「信用買い」、および証券会社から株式等を借りてその株式等を売却する「信用売り」の2種類があります。値段が上がると思えば「信用買い」、下がると思えば「信用売り」です。思惑通り値段が動けば反対売買し、証券会社に現金や株式等を返却して取引完了で、値動きがあった分から金利・手数料を差し引いて利ザヤが確定します。しかし、思惑とは反対に値段が動いた時には、値動き分プラス金利・手数料が損失となり、取引完了時にはその時点での損失を証券会社に支払いしなければいけません。証券会社としてはこの損失分を取りはぐれてはいけないので、信用取引開始時には投資家より現金や有価証券などの担保を差し入れさせ、担保評価額の 3.3倍までしか取引ができないように制限をかけます。それでも投資家とすれば、手持ち資金の約3倍まで売買取引ができるので、利益が出るときは約3倍、損失が出るときも約3倍とハイリスクハイリターンな取引を行うことが可能となります。

2. 信用取引における配当の扱い

ここまでが一般的な信用取引の説明です。
ところで、信用買いをしている間にその株式等の配当金権利確定日を迎えたらどのような扱いとなるのか?
その場合には、「配当落調整額」を受け取ることができます。ただし、この配当調整額は元の配当金から所得税 15.315%を差し引いた金額(すなわち配当金の84.685%)です。また配当落調整額は、配当所得ではなく譲渡所得扱いで、特定口座(源泉徴収あり)の場合には 20.315%の税が課されます。明らかな二重課税で憤りを感じますが、それはさておき結局のところ元の配当金の約67.48%が受取金額となります。

3. 信用取引の維持コスト

一方で信用取引(信用買い)には売買時の手数料に加え、取引維持のため以下の3種類のコストがかかります。なお、REITを前提としているため、単位取引数は1口とします。コストの水準は私の利用している野村証券のもので、証券会社により異なることにご留意ください。

 ① 金利・・・証券会社より資金を借りているため、日割りで金利がかかります。野村証券では 0.85%とかなり低い水準です。
 ② 管理費・・・1か月ごとに1口当たり110円かかります。
 ③ 名義書換料・・・権利確定日ごと(半期末ごと)に1口当り最大55円かかります。

4. 数値例

それではこの取引を実施した場合にどれだけの利益が得られるのか、数値例で示します。なお、ここでは端数調整などを正確に行っていないので実際の金額は多少ずれます。

<数値例>:価格 20万円、分配金利回り5%のREITを1口購入し、1年間保有していた場合、

 ● 収入
  ・配当落調整額: 20万円 × 5% × 67.48% = 6,748円

 ● 支出
  ・金利: 20万円 × 0.85% = 1,700円
  ・手数料: 110円 × 12 = 1,320円
  ・名義書換料: 55円 × 2 = 110円
  合計: 1,700 + 1,320 + 110 = 3,130円

 ● 利益
  収入 - 支出 = 6,748 - 3,130 = 3,618円

 ● 利回り
  3,618 ÷ 20万円 = 1.809%

5. 証券価格と最終利回りの関係

REITの証券価格と利益・利回りの関係は以下の通りです。(分配金の表面利回り5%とする)

証券価格表面利回り(税前)収入支出利益最終
利回り
金利手数料名義書換
10万円5%3.3742,2808501,3201101,0941.094%
20万円5%6,7483,1301,7001,3201103,6181.809%
30万円5%10,1223,9802,5501,3201106,1422.047%

現物で投資した場合は、分配金に 20.315%の税率が課されるので約4%の最終利回りとなります。それと比較すると、信用取引の場合は様々なコストがかかるため最終利回りがかなり低くなります。
また、支出のうち手数料と名義書換料は価格にかかわらず固定ですので、価格が低いと支出負担が大きく最終利回りが低下します。悩みの種としては、REITも投資口の分割が進んだため、高い最終利回りの得られる1口 30万円以上の銘柄が少なくなっていることです。

6. 表面利回りと最終利回りの関係

表面利回りと最終利回りの関係は以下の通りです。(証券価格は20万円で固定)

証券価格表面利回り(税前)収入支出利益最終
利回り
金利手数料名義書換
20万円2%2,6993,1301,7001,320110▲431▲0.215%
20万円3%4,0483,1301,7001,3201109180.459%
20万円5%6,7483,1301,7001,3201103,6181.809%
20万円7%9,4473,1301,7001,3201106,3173.159%

表面利回りにかかわらず支出額は固定されているため、表面利回りが下がるにつれて最終利回りは大きく低下し、2%以下になると最終利回りはマイナスになります。
また、信用取引の金利は固定されておらず、市場金利の動向や証券会社の意向により変動します。実際に野村証券においても、2024年6月に 0.5%から 0.85%に引き上げになりました。金利が1%上昇すると、そのまま最終利回りを1%引き下げます。

7. REIT信用買いのメリットとリスク

これまでREITの表面利回りと信用買いをした場合の最終利回りの関係を見てきました。そこで表面利回りが高くても、税金や取引コストがかかるために最終利回りは大きく低下することが分かりました。

それではなぜ私がREIT信用買いをしているかといえば、株式を担保に取引ができるからです。先に、信用取引を行うにあたっては証券会社に担保を差し入れる必要があると述べました。この担保について、現金でなくとも有価証券を受け入れてくれる証券会社があります。野村証券の場合、株式時価の最大80%を担保評価額としています。例えば、時価 100万円の株式を担保に差し入れると、80万円の担保価値と評価されます。そして担保の3.3倍まで、この例では 264万円までの信用取引が可能です。私の場合、配当狙いで株式の長期保有をしているため、どうせ寝かしている株式であれば担保に差し出せば信用取引ができるわけです。そして、1口 20万円・分配金利回り 5%のREITを 13口 260万円を信用買いすれば、追加資金を1銭も出すことなしに、4万7千円の収入が得られます。
と、そんな美味しい話があるのかといえば、うまい話には裏があります。信用取引には様々なリスクがありますが、その最大のものは「追証(おいしょう)リスク」です。信用取引においては、証券会社は取りはぐれがないように担保価値をリアルタイムで厳格に管理しています。信用買いした証券および担保差し入れの証券が値下がりすると、その金額が担保価値から差し引かれます。その結果、信用取引額が担保価値の 3.3倍を超えてしまった場合、証券会社は数日内(多くの証券会社で翌営業日内)に追加担保の差し入れをすることを投資家に求めます。この追加担保を「追証」と呼びます。もし、投資家が期限内に追証を入れられないと、証券会社は信用取引を強制終了させ、担保を売却したお金で損失の穴埋めをします。そうなると元の株式も信用買いの取引も消滅するので、まさに文字通りに元も子もなくります。さらにいえば、株式を担保に入れた場合、金融危機の際には担保価値の評価下落も信用取引の含み損も同時に拡大するため、2重にリスクが大きくなります。
担保価値に対して目いっぱい信用取引をしてしまうと、追証発生までのゆとりがなくなってしまうので、十分に余裕を持たせた金額に信用取引額を抑える必要があります。私は、担保評価額の最大50%(先の例では40万円まで)に信用取引額を抑えるようにしています。

追証リスクに加えて金利上昇リスクもあることを踏まえれば、このような取引はやめるべきかもしれません。
しかし、現在のREIT市場はかなり割安で分配金利回りも十分高くなっているので、すぐに反転することはないにしても、これからの値下がり幅は限定的でないかと思います。とすれば、自己資金を追加投入することなく、薄利ながらもプラスの収益を獲得しつつ、いつか反転する日を待ちながらこの投資手法を実践するつもりです。

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